ハッピーエンドなんていらない



雪に招かれて家の中に入る。

どこか懐かしい匂いのする家に、「お邪魔します」と小さな声で挨拶をした。

そんなわたしに、雪はクスッと笑みをこぼす。


「覚えてない?

おれの家、父さんが単身赴任で母さんが朝から夜遅くまで働いてていないって」


クスクスと笑う雪の言葉に、わたしはそういえばと思い出した。


小学生の頃、4人で遊ぶときはだいたい公園か雪の家か紫苑の家だった。

紫苑の家はたんにお母さんが招いてくれてたから。

雪の家は、両親がいなくて自由だったから。

1人で寂しいという雪のために、よく3人でお菓子を持って雪の家に遊びに行ったものだ。


…てか、つまりは2人っきりってわけ?!


すっかり忘れていた事実に驚いてしまって、固まるわたしに雪は悲しそうな顔をした。

「覚えてると思ってたんだけど…。

やっぱり、2人っきりは嫌?」

平気そうに笑みを浮かべているけれど、眉は下げられていて悲しそうだ。

そんな顔をされて、ここまで来て、やっぱり嫌だと断れるわけがない。


…それに、2人っきりが嫌なわけじゃない。

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