ハッピーエンドなんていらない



むしろラッキーだと思っているのだから、嫌なわけがないじゃないか。

ただ、すっかり忘れてしまっていたから驚いただけのことであって。


「別に、嫌じゃないよ」

ふわりと笑うと、雪は安心したように微笑んでくれた。


雪に招かれて、久々に雪の部屋を訪ねる。

記憶のほんの片隅にある雪の部屋とはまた大きく違っていた。

1人寂しく家で待つ雪のためにと置いてあった玩具もなく、シンプルな部屋だ。

高校生らしく、置かれた本棚には参考書や教科書が並んでいる。

それを見て、わたしも、雪も、あの頃よりずっと成長したんだなぁと思った。


昔の部屋しか知らない頃のわたしは、もちろん雪は、まだまだ幼くて付き合うとか分からなくて。

まさか自分が雪と付き合うことになるとは思わなかっただろう。

湊を好きだと知った頃のわたしは、まさか雪を好きになるなんて思っていなかっただろう。


「部屋、広いね」

昔よりも狭いようで広く見えて、わたしはぽつりと呟いた。

< 231 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop