ハッピーエンドなんていらない



「別に。湊と紫苑がいただけ」

それだけ、と呟いて図書室の鍵をしめる。

鍵を握りしめる手に力が入るのを感じながら、気持ちを抑えて歩き出す。


「ふーん。そっか」

呟いた雪が、ゆっくりと歩いていたわたしを追い越して、

そっと、わたしの手首を掴んだ。


「へ?」

驚くわたしに構わず、雪は早歩きでどんどんと進んでいく。

そんな雪に腕を引かれ、わたしも同じペースで歩いた。

「早く、鍵も返さなきゃいけないんだから」


雪の言葉に、ああと納得する。

だから、わたしを急がせるために手を引いたのか。


何も言わずに雪に合わせる。

静まる廊下に、パタパタという2つのスリッパの音だけが響く。

それから下駄箱について、わたしの手の中にあった鍵を奪うと、

「おれが返してくるから、彩芽はここで待ってろ」

そう言って職員室の方へ走り去っていった。

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