ハッピーエンドなんていらない
わたしから離れていくその背中をしばらく見つめていると、下駄箱の入り口の方で影が揺れた。
「あれ、彩芽?」
紫苑の声が、静かな廊下で弾んだ。
「先に来てくれたの?…雪は?」
キョロキョロと見渡しながら段差のところまで近付いてくる。
わたしは職員室の方を指差すと、
「図書室の鍵、わたしの代わりに置きに行ってくれたの」
そう言って微笑んでみせた。
湊もこちらに歩いてきて雪が帰ってくるのを見ていた。
「あー、雪、早く早く!」
手を大きく振る紫苑に、雪の顔が一瞬歪んだ。
…そっか、雪は紫苑が好きだもんね。
期待させて、ほしくないもんね。
「、悪い」
素っ気ない態度に、紫苑が振る手をピタリと止めて湊の方を見た。
「…帰ろうか」
笑いかけて靴を履き替え始めると、雪もそれに合わせて靴を履き替える。
前を歩く2人の後ろを、雪と並んで歩く。
チラッと顔を覗くと、紫苑を少し睨むようにしていた。
…好きだから、優しくされることが憎いの…?
わたしは、ヤな女だから、嬉しくなっちゃうな。
じんわりと目に涙が込み上げてくるのを感じた。
…泣きたいなら泣いてしまおう。
部屋の片隅で、1人で。