ハッピーエンドなんていらない



それならなんなのだろう。

コテンと首を傾げると、雪は少し困った顔をしてから、言いにくそうに言った。



「県外に引っ越すんだ、おれ」


突然の告白に、わたしは思わず「え?」と聞き返した。

…引っ越す?この時期に?あと1年なのに?

県外ということは、こうしてわざわざ伝えているということは、それは、転校するということ。

どこに引っ越すのかと聞くと、雪は遠い県の名前を告げた。


「大学はこっちの大学を受けるから、1年の間だけ、お別れってこと」


…別に、新幹線を使えば会いに行ける距離だから、まったくのお別れということではない。

でも来年わたしたちは受験生で、会いに行く時間なんてなかなかない。

だから、実質1年は会えないことになる。


たかが1年、されど1年。


胸がきゅっと苦しくなる。

「彩芽は、遠距離はやっぱり嫌?」

恐る恐る尋ねてくる雪に、わたしは少し戸惑ってふるふると首を横に振った。


遠くに行ってしまうことは嫌だけど、それを嫌がっているんじゃない。

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