ハッピーエンドなんていらない
うん、と小さな声で呟くと、兄はゆるっとした笑顔でわたしを見た。
「大丈夫、ちゃんと、綺麗だよ。自信をもって、頑張っておいで」
兄はきっと、わかっているのだろう。
「うん、頑張る」
口にして、寂しくなる。
わたしは、頑張るべきではないから。
いっそ嫌な奴になりきって、離れてしまえたら楽だろうに。
楽をするよりも、苦しくてもいいから湊の側にいることを選んでしまう。
…嫌だなぁ。
カランと下駄を鳴らして、もう一度だけ行ってきますを言って、家を出た。
浴衣が下駄が、重たくて必死に歩く。
カチャカチャとイヤリングの揺れる音がする。
耳元で鳴る音は少し鬱陶しくて、だけどどこか心地よい。
「…まだ、さすがに誰も来てないよね」
集合場所の近くになって時間を確認すると、まだ集合時刻の10分前だった。