ハッピーエンドなんていらない
だいたいみんな、集合時間ピッタリくらいに来るから、10分前につくのは早すぎた。
そう、思っていた。
けれど、
「あれ、彩芽も随分と来るの早いね」
クスクスと笑いながら、“彼”はおかしそうに言った。
まさかいるとは思わなかったから、思わずピタリと足を止める。
「…雪の方こそ、早いじゃん」
鮮やかな色の秋物の浴衣を、白い肌の上に身にまとった雪。
相変わらず、妙に浴衣の似合うもので、夕暮れ時のオレンジに照らされている。
切なげに微笑む雪の横顔を見ながら、わたしはポツリと呟いた。
「彩芽は、早く来ると思って。だからおれも、早く来ようと思って」
優しく笑いながら、雪はサラッとそんなことを言う。
「わたしが早く来るから?」
いまいちよく分からなくて聞き返すと、雪はそうそうと頷く。
「話し相手いないと、暇でしょう」
クスクスと笑う雪に、「余計なお世話」とそっぽを向いた。