ハッピーエンドなんていらない
2人に近付いて、でも2人の世界を壊したくなくて声はかけなかった。
わたしは。
「よう、湊、いちゃいちゃしやがって」
雪はサラッと湊の隣に行って肩を組んだ。
湊は「帰ってきたか」と笑顔を浮かべた。
わたしは、まだ手が繋がれたままだったから自然と雪の隣に座った。
花火の音が、雪と湊の会話をかき消していく。
「おー、始まった始まった」
湊の声は、やけに鮮明に耳に届く。
4人並んで見上げる夜空に、いくつもの花が咲いていく。
「きれい…」
呟いたわたしの左の手の上に、まだ雪の右手が重なっている。
「だな」
短い返事に、ふわりと笑い返しておいた。
はじめて、湊と紫苑が付き合って初めての秋祭り。
花火が今日のことをいろいろと思い出させて、視界が滲む。
チラッと湊たちの方に目をやると、幸せそうな笑みを浮かべて話す2人がいた。