ハッピーエンドなんていらない
本を手に席に戻ってきたわたしに、紫苑は少し驚きながらもニヤッと笑った。
「最近ってことは、よく来るんだ!彩芽に気があるんじゃない?」
キャッキャと女の子らしい会話をする紫苑に、わたしはそっと首を振った。
「それは、ありえないよ」
だって彼は紫苑が好きなんだから、吐きかけた言葉を飲み込む。
そうかなと不思議そうに首を傾げて、紫苑はずいっとわたしに近付く。
それからニヤニヤと笑うと、
「で、そのお客さんって誰なの?」
興味津々な様子でそう尋ねてきた。
目をキラキラとさせている。
なんとなく言い出しにくくて、別にと呟いて、
「それより、湊はいいの?
さっき、紫苑に会いに来てたみたいだけど」
なんとなく話をそらしてみる。
だけど紫苑は、
「いーの。今は彩芽と話したい気分だから」
そう言ってせつなげに窓を外を見た。
体育館の天井と、空しか見えない。
「部活は?」
「そういう、気分じゃなくて」
悲しそうな顔をした紫苑に、なんとなく察した。