ハッピーエンドなんていらない



トントンとした何の会話のない時間がしばらく流れた。


だけど紫苑は少ししたあと、

「いや、そうじゃなくて、最近誰が来てるのって」

バッと音を立てて立ち上がった。


ジッとわたしを見る目からそらせなくて、しぶしぶと小さな声で、

「雪…」

とお客さんの名前を呟いた。



その瞬間、紫苑の目が大きく見開かれた。


「ゆ、き…?」

誰を想像していたのか、優しくゆっくりとその名前を繰り返す。

そうだよの意味を込めて頷くと、ああそっかと言ってまた座り直した。


「雪が、来てるんだ…。

もしかして、部活の休憩時間のたびに?」

首を傾げる紫苑に、素直にコクリと頷く。


紫苑の一語一句に感じるほんの少しの違和感。

でもそれは違和感でしかなくて、確信しているわけじゃあないけれど。


< 58 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop