ハッピーエンドなんていらない
トントンとした何の会話のない時間がしばらく流れた。
だけど紫苑は少ししたあと、
「いや、そうじゃなくて、最近誰が来てるのって」
バッと音を立てて立ち上がった。
ジッとわたしを見る目からそらせなくて、しぶしぶと小さな声で、
「雪…」
とお客さんの名前を呟いた。
その瞬間、紫苑の目が大きく見開かれた。
「ゆ、き…?」
誰を想像していたのか、優しくゆっくりとその名前を繰り返す。
そうだよの意味を込めて頷くと、ああそっかと言ってまた座り直した。
「雪が、来てるんだ…。
もしかして、部活の休憩時間のたびに?」
首を傾げる紫苑に、素直にコクリと頷く。
紫苑の一語一句に感じるほんの少しの違和感。
でもそれは違和感でしかなくて、確信しているわけじゃあないけれど。