ハッピーエンドなんていらない



「そっか、」

もう一度紫苑が呟いた。

ほんの少し開いた窓から、涼しい風が流れ込んできた。


「そうだよ、ただの、友達」

確かめるようにもう一度繰り返した。


ゆっくりとした空気の流れが、ゆるりと首を絞めていくようだった。

とてつもなく、息がしにくい。

吐き出そうとした言葉が喉につまっているような、そんな感じがした。


はらり、と本のページをめくっていく。

訪れた静寂の中に、本をめくる音だけがパラパラと響く。

紫苑はそんなわたしを見ながら、ゆるりと笑みを貼り付けていた。


貼り付けていたんだ、浮かべていたんじゃなくて。


「…暇じゃない?」

たいして気まずくもない沈黙を破る紫苑の声。

ムスッとしながらわたしを見つめる紫苑が、図書室の中を見渡した。


「毎日来てると、飽きちゃいそう」


…とっくに、飽きてるよ。


紫苑の言葉に心の中で言い返す。

でもそんなこと声にはできないから、

「んー、意外と飽きないよ」

あえて曖昧な回答をする。

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