ハッピーエンドなんていらない



“夏川 湊”の文字がわたしを捉える。

離してくれない、離せない。


親友の、彼氏なのに、こんなにも、好きなのは。

胸が苦しくて息ができなくなりそうだった。

それならそうでいいとさえ思った。


わたしはまだ、“夏川 湊”の文字から目が離せないまま。


本当に衝動的に、そうしてみたくなっただけだった。

ただ意味もなく、意味なんて求めることなく、チョークを手に取った。


そっと黒板に、チョークの端をあてる。

カツンと響きのいい音がした。


あまり力を込めずに、なぞるように文字を書こうとした。

けれどあまりいい音はしなくて。

だから、カツカツとハッキリ濃く書いてしまったんだ。



湊の名前のすぐ下に、『好きです』なんていう文字を。

それはもう、すぐには消えないくらいに濃く。

< 74 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop