ハッピーエンドなんていらない
“夏川 湊”の文字がわたしを捉える。
離してくれない、離せない。
親友の、彼氏なのに、こんなにも、好きなのは。
胸が苦しくて息ができなくなりそうだった。
それならそうでいいとさえ思った。
わたしはまだ、“夏川 湊”の文字から目が離せないまま。
本当に衝動的に、そうしてみたくなっただけだった。
ただ意味もなく、意味なんて求めることなく、チョークを手に取った。
そっと黒板に、チョークの端をあてる。
カツンと響きのいい音がした。
あまり力を込めずに、なぞるように文字を書こうとした。
けれどあまりいい音はしなくて。
だから、カツカツとハッキリ濃く書いてしまったんだ。
湊の名前のすぐ下に、『好きです』なんていう文字を。
それはもう、すぐには消えないくらいに濃く。