ハッピーエンドなんていらない



誰かに見られてはいけないと乱暴に涙を拭った。

慌てて黒板に書かれた文字を消す。

なかなか消えなくて、改めて強く書いたことを後悔する。


それと同時にまた涙が込み上げてきそうになって、涙をこらえながら強く黒板を消す。

パタパタと遠くから近付いてくる足音が聞こえてきて、黒板消しをそっとおいた。


大丈夫、泣いたって分からないはず。

パチンと軽く頬を叩いてから、その足音が通り過ぎるのを待った。


けれどその足音はわたしのいる教室の前で止まった。

そうしてガラリと音を立てて、教室の扉を開ける。


「あ、彩芽…」

その人は、汗だくになりながらわたしの名前を呼ぶ。


そこに立っていたのは雪だった。

< 76 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop