ハッピーエンドなんていらない



だけどだけど、忘れたくないと思うのは。


「…本当に、幸せかな」

ポツリとこぼした言葉に、雪はゆっくりと首を傾げた。

わたしは、自分の想いを知らぬふりする幸せを、無視して知らんぷりした。


「わたしは、湊が好きだよ。

想うことの幸せを知ってるけど、知ってるから、消そうと思えるんだよ」


よく、わからないけど。

わたしにも、何が言いたいのか分からないけれど。


想うことの幸せを知ってしまって、忘れることを恐れてしまう。

でも、想うことの幸せを知ってるから、もっと幸せな恋がしたいと思える。

だから今ある想いを、消そうとそう思えるんだ。


雪はキョトンとしたままわたしを見て、それからそっかと笑いかけた。



「なら、ちゃんと綺麗に消さないと」


そう言って雪が手に取ったのは、黒板消しだった。

わたしには消せなかった文字を、なぞるように消していく。

< 82 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop