ハッピーエンドなんていらない
だけどだけど、忘れたくないと思うのは。
「…本当に、幸せかな」
ポツリとこぼした言葉に、雪はゆっくりと首を傾げた。
わたしは、自分の想いを知らぬふりする幸せを、無視して知らんぷりした。
「わたしは、湊が好きだよ。
想うことの幸せを知ってるけど、知ってるから、消そうと思えるんだよ」
よく、わからないけど。
わたしにも、何が言いたいのか分からないけれど。
想うことの幸せを知ってしまって、忘れることを恐れてしまう。
でも、想うことの幸せを知ってるから、もっと幸せな恋がしたいと思える。
だから今ある想いを、消そうとそう思えるんだ。
雪はキョトンとしたままわたしを見て、それからそっかと笑いかけた。
「なら、ちゃんと綺麗に消さないと」
そう言って雪が手に取ったのは、黒板消しだった。
わたしには消せなかった文字を、なぞるように消していく。