ハッピーエンドなんていらない
ぐんぐんと進むわたしに、雪がふと立ち止まって、
「なあ、彩芽」
ゆっくりとわたしの名前を呼んだ。
その目はジッとわたしを見据えていて、なにかを見透かされているようで。
雪はふっと笑うと、空を見上げた。
「月が、綺麗だな」
雪に言われて空を見上げると、満月でも半月でも、なんでもない月が浮かんでいた。
だけど、確かに今日が晴れているためにとても綺麗だった。
「ほんとだ、綺麗だね」
そう呟くと、今度はわたしの方を見た雪が、またゆっくりと歩き始める。
そのあとをおいていかれないように追いかけるわたしに、雪は優しく笑いかけた。
「彩芽はさ、湊のどこを好きになったの?」
不意に首を傾げた雪に、わたしは答えを迷った。
小学5年生からの恋、もう5年も6年も前のことだから、どこがとは言えなかった。
好きという気持ちは大きくなるし、どこが好きかなんて上書きされてって分からなくなる。
どこを好きになったのかと今更問いかけられても、よくわからない。