君は夜になく
放課後、帆乃香は宣言通りクラスにやって来て、あたしが帰ろうと言うと嬉しそうに笑った。
あたしも一応は笑い返したけど、すみれちゃんたちの空気を思い出してヒヤリとした。
帰りは適当に帆乃香の話を聞きながら帰る。
なんだかもう、去年と全く一緒。
「あ、真夜、聞いてくれた!?」
「え?」
「もう!真昼さんに次帰ってくるのはいつなのかってこと!忘れてたでしょ?」
ぷくりと頬を膨らませる姿はきっと誰が見てもかわいいと言うんだろうな。
けどあたしには、悪魔にしか見えない。
この子はあたしのいやな部分を堂々と引きずり出す。
「いや、兄さん、今年度始めで忙しいみたいで。」
「そっか…」
「じゃあ、ここで。」
「あ、うん、また明日ね!」
兄さんが帆乃香に会いに帰ってくる可能性など、一ミリもない。
それなのに、まるで待ってて、と言う言い方をした自分に嫌気がさす。
このままずっと、黙ってるわけにはいかないのに。
四月に入ったばかりの夕方はまだ冷える。
そういえば、あの担任のせいで、思いついた旋律が飛んじゃったんだった。
あれ、すごい良かったのになあ。
なんだか、今日は、弾きたくなってきた。
あたしは足早に帰宅し、20時過ぎにギターケースを肩に掛け再び家を出た。
ぐるぐると自分の中で蠢いている音たちを、早く吐き出してしまいたい。