君は夜になく
男の子は、呆れたようにため息をつくと、おじさんに向かってぴしゃりと言い放った。
「おいおっさん。次の駅で降りろ。」
「な、なんでお前の言うことなど…!」
「警察、行きたくなかったら降りろっていってんだけど?」
「!」
タイミングよく止まった駅に、そのおじさんは逃げるように降りていった。
朝から思わぬ展開にあたしはポカンとするばかりだった。
にしても、痴漢だなんて…最低にも程がある。
怖かっただろうな。
帆乃香は学校の最寄りに着くまで男の子に守ってもらっていた様子だった。
ホームに降りると、さっきの男の子と一瞬目が合う。
ちょっと会釈すると、興味無さげにふらっと歩いていってしまった。…気づかれなかったのかな?
にしても、綺麗な声だったなあ。
ちょっと走っていって、帆乃香に声をかける。
「帆乃香!大丈夫だった!?」
「うん…怖かったけど、あの男の子が守ってくれたから大丈夫だった。心配かけてごめんね。」
男の子に守ってもらえるなんて、羨ましい話だとつい浮かんだ不謹慎な考えを押しやる。
「なに、惚れちゃった?」
茶化すように言うと、帆乃香は慌てたように言った。
「惚れません!私がす、好きなのは…真昼さん、だもん…」
俯きながら頬を赤らめる姿は、まさに可憐。
だけど、相手が問題なのだ。
あたしが帆乃香を避けたいもうひとつの理由は、彼女が真昼さん…あたしの兄が好きだということ。