始まりの青
side 海音
三月一日。とある県立高校の美術室。現在の時刻、午後一時。
今日は卒業式だった。
すでに式典は終わって、担任を持たない臨時美術教師の俺――二ノ宮海音は暇をもてあましている。
美術室前の廊下の窓から下を見下ろせば、今日限りの制服の胸に花を飾った卒業生が、最後の別れを惜しむように写真を撮りあったり、後輩から花束を渡されたり。
さすがに桜は間に合わなかったけれど、三月初旬にしては暖かい陽気だ。天もこの日を祝福してるんだろう。
「そうか……学ランだから、『お約束』の第二ボタンイベントも発生するのか」
窓の真下では今まさに、昔から廃れることのない卒業式の定番――好きな男子の第二ボタンを貰うイベントの真っ最中だった。
俺の出身校の男子の制服は中高共にブレザーだったからなぁ。
第二ボタンイベントに遭遇するのは人生で初めてだ。
「……青春だね」
こっそりつぶやいて、美術室に戻る。
去年の春の着任式以来、着ることのなかったスーツのネクタイを緩める。
堅苦しい格好は昔から嫌いだ。
こう……首輪を付けられ照る感じがするっていうか、そんな感じで。
生徒がいない美術室なんて、それこそ毎日見ているはずなのにさびしく感じるのは、今日が卒業式だったからか?
今日は卒業式だった。
すでに式典は終わって、担任を持たない臨時美術教師の俺――二ノ宮海音は暇をもてあましている。
美術室前の廊下の窓から下を見下ろせば、今日限りの制服の胸に花を飾った卒業生が、最後の別れを惜しむように写真を撮りあったり、後輩から花束を渡されたり。
さすがに桜は間に合わなかったけれど、三月初旬にしては暖かい陽気だ。天もこの日を祝福してるんだろう。
「そうか……学ランだから、『お約束』の第二ボタンイベントも発生するのか」
窓の真下では今まさに、昔から廃れることのない卒業式の定番――好きな男子の第二ボタンを貰うイベントの真っ最中だった。
俺の出身校の男子の制服は中高共にブレザーだったからなぁ。
第二ボタンイベントに遭遇するのは人生で初めてだ。
「……青春だね」
こっそりつぶやいて、美術室に戻る。
去年の春の着任式以来、着ることのなかったスーツのネクタイを緩める。
堅苦しい格好は昔から嫌いだ。
こう……首輪を付けられ照る感じがするっていうか、そんな感じで。
生徒がいない美術室なんて、それこそ毎日見ているはずなのにさびしく感じるのは、今日が卒業式だったからか?