始まりの青
「先生……」


すこし潤んだ目で見上げてくる波音を見て、海音は胸をなでおろす。


波音の気持ちも、自分と同じところにあるんだということが確認できて、安心したからだ。


あの夏の日。


二人で海に行って、約束を交わした。


ひどくあいまいで、不確かな約束を。


自分は本心から交わしたけれど、波音はどう思っていたのかなんて分からなかった。


もしかして、独りよがりなものだったのではないか。


確認したくてもできない立場で、環境。


それでも、あの約束を信じて描いた一枚だった。


たとえ、約束が反故にされたとしても、後悔はしないと。


「ありがとうございます、先生」


ぎゅっと絵を胸に抱きしめて頭を下げる波音に、その心配は杞憂だったと知る。


「卒業、おめでとう」


海音の言葉に、波音はもう声も出せなかった。
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