始まりの青
「どうした? 忘れ物か?」


そんなわけないだろ、と自分に突っ込みを入れつつとりあえずたずねてみると、案の定、いいえと返ってきた。


「先生を、探してたんです」


「……俺?」


予想外の答えだ。


教卓から身を起こして向き合うと、女生徒はゆっくりと近寄ってくる。


「私、三田江里子です。私のこと……覚えていませんか?」


いやまったく。


内心で即答したけれど、さすがにそれはまずいだろう。


三田江里子という名前もぴんと来ない。


大体、俺は人の名前を覚えるのが苦手なんだよ。


などとすべて心の中でつぶやきつつ、一応考えるポーズをとって、悪い、と首を振る。


「校内ですれ違ったことぐらいはあるだろうが……。三年生とは接点がないからな。話したことがあったか?」


「いえ……。校内では、話したことはありません。二学期の初めくらいに、駅で……」


その先を言い辛そうに濁す。

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