始まりの青
三田の髪は、今でこそ肩を越す長さになっているけれど、電車の中で見た時はまだショートカットだった。


背丈も同じくらい。


でもよく見たら髪の色が違うし、電車通学じゃないのに。


なぜだか俺は勘違いしたんだ。


……『彼女』と。


スカートの上をさまよう手を見た瞬間に頭に血が上って、気がついたら痴漢野郎の手首を掴んでた。


情けないことに、駅のホームに降り立って大丈夫か、と確認したときにはじめて別人だと気がついた。
 

……なーんてことはとてもじゃないが、言えないだろ。


「でも、助けてもらったのは事実ですから。本当に、ありがとうございました」


「いや……うん。こっちこそ、わざわざありがとうな」


三田本人を助けたつもりじゃなかったから、お礼を言われるのは正直心苦しい。


だけど、真実を話すわけにもいかないから、少々目を逸らしつつ受け入れる。


さて、これで用もすんだだろうと思っていると、三田はすこしうつむいて、なにやら言いにくそうにもじもじしている。


心なしか、頬が赤い……様な気がする。


……なんだこの雰囲気。ちょっと……やばくないか?


この独特の空気感に、覚えがある。これはあれだ。そう……。

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