始まりの青
「三田のことを、恋愛対象として見られないんだ」


ひとりの人間として、三田を選ばないんだ。


十八の少女には、すこしきつい言葉かもしれないけれど。


この先三田が新しい恋をしたときに同じ過ちを繰り返さないよう、教師である俺がしてやれることはこれぐらいしかない。


好きだという気持ちは、押し付けるものじゃないから。


「三田の気持ちはうれしい。けど、三田の気持ちには応えられない」


「……考えてももらえないんですか?」


とうとうあふれ出した涙が、真っ赤になった頬に伝う。


かわいそうだけれど、その問いにも肯定を返すしかない。


「俺にも、好きな人がいるんだ」


だから、だめなんだ。


もう一度ごめん、と謝ると、三田は何も言わずに美術室を飛び出していった。


「……はあ…………」


告白を断るのは、いくら経験しても嫌なもんだ。


別に自分が悪いわけじゃないのに、後味がよくない。

< 8 / 24 >

この作品をシェア

pagetop