私、今から詐欺師になります
私、今から詐欺師になりますっ
「私と離婚してください。
……今日こそ、離婚してください?
もういいでしょう。
離婚してください」
ある意味、物騒なセリフをぶつぶつと言っている茅野(かやの)の横を通ったカフェの店員が、ぎょっとしたように茅野を振り向く。
だが、茅野の目には、その店員の姿は入ってはいなかった。
此処は、一応、夫である茂野秀行(しげの ひでゆき)の会社が入っているビル。
その一階にあるカフェだった。
ビルの中からも入れるし、外からも入れる扉がある。
時折、その両方を窺いながら、茅野は緊張した面持ちで、紅茶を飲んでいた。
「三年経ったら離婚してくれるって言いました。
もう三年です。
離婚してください」
何度も練習してきたセリフを繰り返す。
よし、完璧、と息を吐いたとき、目の前のテーブルに居た女の子のグループの視線が一斉に動いた。
「ね、あの人格好よくない?」
「ちょっと気障っぽいよ。
顔はいいけど」
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