私、今から詐欺師になります
私、今から詐欺師になりますっ
 


「私と離婚してください。

 ……今日こそ、離婚してください?

 もういいでしょう。
 離婚してください」

 ある意味、物騒なセリフをぶつぶつと言っている茅野(かやの)の横を通ったカフェの店員が、ぎょっとしたように茅野を振り向く。

 だが、茅野の目には、その店員の姿は入ってはいなかった。

 此処は、一応、夫である茂野秀行(しげの ひでゆき)の会社が入っているビル。

 その一階にあるカフェだった。

 ビルの中からも入れるし、外からも入れる扉がある。

 時折、その両方を窺いながら、茅野は緊張した面持ちで、紅茶を飲んでいた。

「三年経ったら離婚してくれるって言いました。

 もう三年です。
 離婚してください」

 何度も練習してきたセリフを繰り返す。

 よし、完璧、と息を吐いたとき、目の前のテーブルに居た女の子のグループの視線が一斉に動いた。

「ね、あの人格好よくない?」

「ちょっと気障っぽいよ。
 顔はいいけど」
< 1 / 324 >

この作品をシェア

pagetop