私、今から詐欺師になります
「急に抵抗が激しくなったな?
 どうした」

 いや、前から嫌だって言ってますよ、と心の中で思いながら、そこにあったクッションを抱いていた。

 まあ、なんの武器にもならないが。

「まさか。
 働きに出たからって、好きな男でも出来たんじゃないだろうな」

 ぎくりとしたが、すぐに、秀行は、
「いや、ないな」
と言う。

 何故だ!?
 何故、言い切る!? と思っていると、
「外に出たからって、俺以上の男がそうそう居るわけないもんな」
と恐らく、笑いまじりに言い出した。

 ……本当に恐ろしい人だ。

 いっそ、分けて欲しいな、その自信、と思う。

 しかも根拠がないわけでもないところが、なにより恐ろしい。

「開けろっ、茅野!」
とドアを叩かれ、恫喝される。

 だが、頑張って、
「い、嫌ですっ」
と今日は更に抵抗してみた。

 あとで大惨事が待ち構えているかもしれないとわかっていて。

「なんでだ?」

 なんでだって、なんでだ?
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