私、今から詐欺師になります
 



 初めて聞いたな、こんな話、と茅野は思っていた。

 辛かったのだろうが、二人の表情も語り口調も淡々としている。

 そういうところは見せないようにしているのだろう。

 だが、秀行は、
「なんだろう。
 いまいち同情出来ないうえに、かける言葉が違う意味で見つからないんだが」
と呟いていた。

 金があったから、苦労はしなかったというところが問題なのだろうかな、と思っていた。

 秀行の実家も父親が体調を崩したときに、経済的に苦しくなって、高校の頃は、なかなか苦労したようだったから。

 こう見えて、秀行は涙もろいのだが、泣くポイントがなかったようだ。

「なんの話だったかな……」

 お前らが混ぜっ返すからわからなくなったじゃないか、と文句を言う。

 私にはいつも、混ぜ返されてわからなくなる程度なら、たいした話じゃないんだろうと言う癖にな、と思っていた。

「そうだ。
 俺は金を返しに来たんだった」

 返したぞ、と確認するように穂積に言う。
< 197 / 324 >

この作品をシェア

pagetop