私、今から詐欺師になります
 



 誰かひとりでも恋愛に長けていたら、すぐに決着が着いていたろうに。

 茅野とバスに乗った玲はそんな自分の言葉を思い出していた。

 バスは混んでいたが、空いている席も少しはあった。

 だが、茅野は座らないと言う。

「あの、ご年配の方が乗っていらしたとき、席を譲るか迷うので。

 譲られて嫌な方もいらっしゃるじゃないですか。
 自分ではまだ若いと思ってるのにとか。

 その判断がつきかねるので、混んでいるときは、あらかじめ座らないんです」

 はは、茅野ちゃんらしいね、と笑った。

 二人で並んでつり革を持っていると、茅野の童顔と相まって、なんだか、学生時代を思い出してしまう。

 ちょっと気になる女の子と並んでバスに乗ったときのこととか。

 ……まあ、僕、女装してたけどね。

 あれも完全に女友だちだと思われてたな。

 今もかなあ、と窓の外を見ながら、なにか話している茅野の横顔を眺めていた。

 本当に白くてきめ細やかな肌だ。

 茂野が何処にも出さないで家に閉じ込めてたからかな、とちょっと思ってしまう。

 恐らく、生まれつきなのだろうが。
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