私、今から詐欺師になります
「これだろ?」
と秀行は茅野をお姫様抱っこしたまま、片手であのタクティカルペンを出してきた。

 そのまま、遠くへ放る。

 茅野は慌てて飛び降り、それを取りに走る。

 急いでつかんだときには、もう、秀行はそこまで来ていた。

 タクティカルペンを手に、
「刺しますっ」
と言ったが、秀行に軽くその手首を払われた。

 力のない茅野の手から、それは、いとも簡単に飛んでいく。

 ああっ? と振り返ると、阿呆か、という目で秀行が見下ろしていた。

 再び拾おうとしたとき、
「来い、茅野」
と腕をつかまれたので、茅野は慌てて側にあったものをその腕に抱えた。

「刺しますっ」
とそれを振り上げ言うと、

「刺せるかっ」
と怒鳴られる。

 茅野がつかんでいたのは花瓶だった。

 自分も、言ったあとで、

 うーむ。
 よくある凶器には違いないが、刺せないな、とは思っていた。

 サスペンスなら、これで殴れば、ほぼ100%死ぬのだが……。
< 215 / 324 >

この作品をシェア

pagetop