私、今から詐欺師になります
「今日も一日ありがとうございました」
仕事を終えた茅野は、いつものように封筒を受け取り、穂積に、深々と頭をさげた。
「今日の約束は覚えているか、詐欺師」
いきなり詐欺師呼ばわりか……と思いながら顔を上げると、穂積は自分を見つめ、
「一度始めたことは最後まで、だろ?」
と言ってくる。
その先生のような口調に、
「わかりました」
と茅野は頷く。
「頑張って、穂積さんから、七億奪いますっ」
「よし」
と頷き、穂積は頭を撫でてくれた。
つい、嬉しくて笑ってしまう。
詐欺師と呼ばれて、ほっとしていた。
これは詐欺なんだからいいんだ、と思えるから。
これは、秀行さんに命じられた詐欺で、いけないことをしているわけではないのだと。
でも、本当はわかっていた。
もうすぐ、自分で扉を閉じねばならないことを。
目の前に明るい光を見ながらも――。