私、今から詐欺師になります
でも、恋をしたのは初めてです
『三年経ちました。
離婚してくださいっ』
此処でそう言ったときは、まだ扉の隙間にわずかな光が見えていた気がするんだが。
そんなことを思い出しながら、茅野は、ビルの一階にあるカフェで穂積を待って、ぼんやりしていた。
「あの……」
と誰かが声をかけてくる。
振り向くと、見たことのない若い男が立っていた。
スーツを着ているから、このビルの何処かの会社に勤めている人かな、と思う。
そんなにイケメンというわけではないが、感じのいい人だった。
「ときどき、秋本さんと話してる子だよね」
佐緒里のことだろうか、と思い、はい、と言う。
「あの、日高玲司さんともよく居るけど。
あそこの会社で働いてるの?」
はい、とまた、言いながら、そういえばの、玲さんの名字、日高だな、と気がついた。
社長の身内ということを伏せているとかってわけでもないようだけど。
なんで名字が違うんだろう。