私、今から詐欺師になります
「もういっぺん言ってみろ」

 おかしなことを言えば、はたくっ、という構えなのか。

 まだメニューを手にしたまま、秀行は自宅でそうであるように、高圧的に言ってくる。

「三年経ちました。
 約束通り、離婚してください」

「お前は、鶴か、乙姫か」

 約束ってなんだ? と言われる。

「今度言ったら、水かけるぞ」

「ええーっ。
 三年経ったら、離婚してもいいって結婚するとき言ってくれたじゃないですかーっ」

「記憶にないな。
 大体、お前の実家に幾ら投資したと思ってるんだ。

 離婚したかったら、全額返せ」

「えーっ。
 なんですか、それっ。

 まるで、結婚詐欺じゃないですかっ」
と言うと、秀行は顔をしかめる。

「結婚してやったのに、結婚詐欺はないだろう。
 結婚しないと、結婚詐欺になるかもしれないけどな」

 してやったのにってなんだー!?

 こっちは父親の会社を立て直すために、吉原に売られるような気持ちで嫁に来たのにっ、と思わず叫びそうになるが、秀行のおかげで、会社が立て直せて、従業員一同、路頭に迷わなくて済んだのは確かだ。
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