私、今から詐欺師になります
 秀行はポケットに手をやり、茅野の手錠を外してくれた。

 茅野は赤く筋のついてしまったおのれの手首を見ながら言った。

「穂積さん、秀行さん」

「待て。
 なんで俺が後だ」

 ……細かいな、こんなときまで、と思いながらも顔を上げて言った。

「私、しばらく、一人でやってみます。
 なにもかも、一からやり直してみたいんです。

 お金はいつか必ず返します、秀行さん」
と見ると、

「わかった。
 毎月、ちょっとずつでいいから返しに来い」
と秀行は同意してくれた。

 そうだな、それもいいかもしれないな、と言い出す。

「一からやり直そう、茅野。
 俺はやり方を間違ったし、お前と穂積は出会い方を間違った。

 俺も穂積も、お前から距離を置いて、一からやり直すよ」

「待て。
 何故、俺まで巻き込む」
と言う穂積を振り返り、秀行が言う。

「穂積」

 ん?

 そういえば、いつの間にか、穂積と呼んでるな、と思っている茅野の前で、
「なんだ?」
と穂積が訊き返す。

「……とりあえず、ガラス屋を呼んで直してけ」
と秀行は、ガラスの散らばった床を指差した。

 はは、と茅野は苦笑いする。

 そして、言った。
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