私、今から詐欺師になります
 



「今日は、ありがとうございました、日高さん」

「玲でいいわよ。
 私も茅野って呼んでるし」

 貴女、そこの物置に、ロッカー置いてもらってあげたから、と玲が指差す。

「あんなところで、ごめんね。
 今、他に更衣室ないの。

 みんなにはノックしてから開けるように言ってあるから」

「はいっ。
 玲さん、ありがとうございますっ」

 そう言うと、玲はどきりとするような笑顔を見せたあとで、
「じゃあ、また明日、茅野ちゃん」
と何故かハグしてくる。

 斜め後ろに居た若い男性社員が、何処かに電話をしながら、こちらを見、おいおい、という顔をしていた。

「はははははっ。
 はいっ。

 ありがとうございますっ。
 失礼しますっ」

「あれっ? 茅野さん、もう帰っちゃうのー?」
と誰かが言った。
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