私、今から詐欺師になります
「はいっ。
 みなさま、どうも失礼致しますっ」
と茅野は社員の皆さまに礼をし、鞄を手に出て行った。

 エレベーターに乗った茅野は、どきりとする。

 すぐ下のフロアで扉が開いたからだ。

 だが、幸い乗ってきたのは、知らない人だった。

 軽く頭を下げ、隅に移動する。

 向こうもこちらを見ないまま、頭を下げ、乗ってきた。

 スマホを弄っている。

 秀行の会社の人間か、訪ねて来た人間か知らないが、顔を合わせずにすんで、ほっとしていた。




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