私、今から詐欺師になります
よーし、晩ご飯間に合ったーっ、と茅野が思ったとき、玄関のドアが開く音がした。
先程、車の音がしたので、もう秀行の食事は並べてあった。
「お帰りなさい」
と出迎えると、秀行は、
「ただいま」
とソファに荷物を置きかけて、なにか思い出したらしく、そこに座り、何処かへ電話をかけ始める。
いつも通りの光景だ。
そのあと、いつも通りに食事をすませたあとで、秀行は顔を上げ、訊いてきた。
「そういえば、結婚詐欺はどうなった」
覚えてたのか、と苦笑いしながら、茅野は珈琲を運ぶ。
秀行のことだ。
言うだけ言って忘れているのではないかと思っていたのだ。
どうせ、私にはなにも出来ないと思って。
「どうせあのまま帰ったんだろ?」
と秀行は持って帰った仕事を見ながら、笑って言ってきた。
「いいえ」
いいえ? とこちらを見る。
「私、就職することにしました」
と笑顔で言うと、カップを置いた秀行が手招きをした。