私、今から詐欺師になります
 それはお金のためだけではないと母が言っていた。

 本当にお前を愛して大事にしてくれているからだと。

 そう……

 そうかなあ? と茅野は首を捻る。

 確かに、実家に行ったときなどは、思いやってくれるいい夫なのだが。

 あれは演技だ。
 普段は違う。

「誰か好きな男でも出来たのか?」

 腕を組み、窺うようにこちらを見て、秀行は訊いてくる。

「は?
 いいえ、全然」

「だよな」
と秀行は言った。

「だよなってなんですか~?」
と思わず、テーブルに腕をつき、身を乗り出す。

「いや、全然色気がないから。
 ……人妻なのにな」
と多少呆れたように言ってきた。
< 5 / 324 >

この作品をシェア

pagetop