イゾンセイ
「そういえば名前聞いてなかったな〜」
「ないよ」
「え」
「嘘ついた。正確には思い出せないかな」
帰路を歩んでいる時名前を聞いてなかったからそれを彼に問うた。が、彼名前が思い出せないらしい。変な子…いや、僕が言えることじゃないか…。
「記憶がないんだよね。なんか、逃げ出して1日たったら自分が何者なのか、今までどこにいたのかとか、どこから逃げ出したのかとか、両親のこととか、名前とか。全部忘れちゃってさ。」
彼はそう言うとまた強く手を握った。どうやら相当気に病んでるようだ。
僕よりやばい記憶喪失なんだ…と思うと他人事には思えなくなってきた。
「じゃあ白いから白でいい?思い出せないあいだは」
「うん。安直な気はするけどいいよ」
「で、僕の名前は玲太。根岸玲太だよ。」
りょーたと白は言った。何かを確かめるみたいに言うもんだからドキッとしてしまった。
何度かりょーたと言うと次はこちらと目を合わせて
「リョータだね、覚えたよ。これからお世話になるけどよろしく。」
「あ、うん。よろしく!」
その目がやっぱり何かを訴えてるような気がして。ちょっぴり怖くなったというか…。
「ね、リョータは何歳なの?」
「20歳だよ〜といっても煙草も、お酒もやったことないんだけどね」
「高校生ぐらいと思った」
「よく言われるなぁ〜慣れちゃったけど〜…って白は何歳?…あ、記憶なかったんだっけ…ごめん空気読めなくて」
「16…あれ、なんで歳覚えてるんだろ」
白は首を傾げてしまった。まぁそりゃ記憶無くしてるのに言えるんだもんね…って16の割には身長低いなとは言わないでおこう。
「これは進歩なんじゃない?何事もプラスに考えようよ!」
「そだね」
それからは無言になってしまった。


無言のまま家に着いた。僕の家そこそこいいマンションの4階なんだよね。白は驚いていたけど。家賃もそれなりにするけどあいつが好意で払ってくれてるし便利だ。
「さ、どーぞ。マンションにしては広めだからこれからゆっくりしてね!」
「ん…おじゃま、します…」
白は履いていた靴を綺麗に整えスタスタと電気をつけずにリビングまで歩いていく。
その時だ
なんだか、その、後ろ姿を見てると
無性に、むしょうに、それを、

殺したくなった。

僕は傘にまぎれて立てかけてあった釘付きのバットを白の後頭部めがけて振り下ろした。

血は、あまりなかった。けど白は気絶したらしい。どうやらかすっただけみたいだ。
「は、はぁ…はぁ…、な、にやってんだ僕…」
釘バットを置いて僕は白を抱き抱えリビングまで運んだ。
やな思い出がまた1つ増えてしまった。
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