Leila -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅱ-



「……夜這い!?」



 思わず頓狂な声を上げたリーラに、アルザは慌てたように「違う! 違うから!」と言って、右手をずい、とリーラの顔の前に突き出した。



 その手の中には、赤い薔薇が一輪。


――毎日リーラの部屋の窓辺を彩っている、あの赤い薔薇だ。



「政務の前に、これを。……その、実は毎日、これを飾りに君の部屋に来てたんだ。寝てる間に部屋に入られるのは不快かと思ったが、政務の前以外でなかなか時間が取れなくて。……すまない」



 バツの悪そうに言うアルザと薔薇を交互に見比べて、またいつのまにかぽかんと開いていた口を、リーラは気づいてあわてて閉じる。


「これ……毎日陛下が?」と問うリーラに、アルザは頷いた。



 リーラはアルザの手の中にある薔薇の花を見つめた。


美しい赤。

朝露が陽の光を反射して光る。


そこでようやく、先ほどまで薄暗かった窓の外が、もう朝日を迎え明るくなっていたことに気がついた。



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