Leila -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅱ-
毎日、日も昇らないうちから起きて、夜も更けきった頃に自室に帰る。
そんな生活をしているのにも関わらず、花など侍女に頼めばいいのに、わざわざ毎朝リーラの部屋へ足を運んでいたのか。
そっと手を伸ばして、リーラは花を受け取った。
「……ありがとう、ございます」
それから、ごめんなさい。と、リーラは頭を下げた。
「わたくしったら、陛下を賊と間違えるなんて」
「謝らなくていいさ、そんなこと。むしろ恐怖にすくむことなく冷静に衛兵を呼ぶ豪胆さは、さすが俺の妻だ」
軽やかに笑いながら言ったアルザの言葉に、リーラはカッと顔が熱くなるのを感じてうつむいた。
何の気負いもなく言われた、「妻」というひとこと。
当たり前のように。
婚礼の儀を済ませていないことなど、すこしも障害ではないというように。
アルザが会いに来ないこと、婚礼を先延ばしにされていることであんなに不安だった気持ちが、その一言で消え去った。
同時に、このひとを疑っていたことがひどく恥ずかしくなった。