Leila -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅱ-
不思議だ。
このひとの軽やかな声は、秋の心地よく乾いた風のように、不安に湿った心をさっと通り抜けて、淀んだ空気を洗い流してくれる。
「じゃあ、俺は政務があるからもう行く。昼にまたレグナムに様子を見に行かせるから、なにかあればレグナムに言ってくれ」
そう言って、きびすを返そうとするアルザの袖を、リーラはとっさに引っ張った。
「あの、陛下」
「ん?」
驚いたように、すこし目を見開いて、アルザはリーラを見下ろした。
まだ、話したいことがある。
もっと、話すべきことがある。
疑う気持ちが消えたとしても、政のことを考えると、婚礼を急いだ方がいいのは変わらない。
それに、――もっとこのひとを知りたい。
「今夜、お部屋にお邪魔しても?」
とっさに口をついて出た言葉に、アルザは「え」と小さく声をあげて、右手で口を覆った。
その顔がほんのり赤いのを見て、リーラはハッとして首をぶんぶんと横に振った。