先輩とわたし
想い
橘先輩と美咲さんの話が終わって、
ハッと気付いた
「あ、あの、もう離してもらえますか、ね..... 」
そういえば、流星さんに抱きしめられた状態だった.....!
男の人に、抱きしめられたことなんて
パパ以外ないから
今更になって急に恥ずかしくなってきた
「ん?ああ、ごめんごめん。」
口では謝りつつも、離してくれない
「いや、だから、離してくださいってば...!」
そう言って勢いよく腕を上げようとしたけど
やっぱり男の人の力には勝てなくて、
すぐに力つきる
「....... 俺が離したら、どこ行くの」
疑問形ではない、自分自身に問いかけているような口調で淡々と言った
その顔は 流星さんには似合わない真剣な顔
「どこって.... 橘先輩のとこです。」
橘先輩は、美咲さんの後ろ姿を見送ったあと、
自分は帰らずに、部室に戻って行った
「でも、今のあいつには.....」
「分かってます。」
分かってる。橘先輩のこと、今はそっとした方がいいってこと。
でもね、わたし、言われたから。
もっと自己中になっていいよって。
だから今から行く
私が行きたいって思ったから。
「 ..... そうか。あー、離したくねえなあ。俺だって...... 真剣なのに。」
「.......え?」
星空を見上げていた流星さんは
顔を私に向けた
密着しているせいで、近い
今にもキスしてしまいそうな距離
夜のせいなのかな
妙に色っぽく見える
「それって..... どういう意味ですか」
するとさっきの真剣な顔とは一変して
ニヤッと笑うと、声を上げて笑い出した
「はははっ、ふはっ、」
笑いが止まらないのか、抑えつつも肩を震わせている
「なっ、なな、なんなんですか!」
「いや、本気にするかなあと思ってさ〜!俺が告白っぽいこと言ったら?純粋な愛ちゃんは本気にするのかなって!冗談だからな!」
「うわっ、サイテー!ありえないです流星さん!女心を弄びましたね!」
「ははっ、ごめんって。ほら、早く行っておいで。隼人のとこ」
そう微笑んで、私の背中に回していた腕を離した
まだ流星さんの体温が私に染み付いている
「...... ハイ。あの、正直、助かりました。私、あの場で1人だったら、きっと逃げ出してたので。」
私も同じように微笑み返して
先輩がいる部室に向かった
___
「本当に、本気だって、言えたら良かったのになあ」
切なげに笑う流星を知らずに。