先輩とわたし
グラウンドに行くと、2人が向かい合って、話していた
ちょうど、マウンドの上
「自主練もしないで、何してるの...」ひとりでボソッと呟いた
2人は真剣な顔をして、私が来たことに気づいていない
「俺、あの時見てたんだ。愛ちゃんと流星が抱き合ってるとこ」
橘先輩は少し、ドスの利いた声を出した
...... 先輩、怒ってる。
というか、見てたんだ。確かに、声響いてたからな...。普通に部室に聞こえたんだろうなあ。
「あ〜、ははっ。見てたんだアレ。まあ特に深い意味はねえよ」
いつも通り、おちゃらけた調子で答えた流星さんは、橘先輩の怒りを買ってしまった
橘先輩は流星さんの胸ぐらを掴んだ
「..... 何してんだよ。」
「愛ちゃんが部室に向かった後、言ってだろ。本気なのにって。お前、愛ちゃんのこと、好きなんだろ。」
はあ.....?
はあ?なんて言っちゃいけないんだけど、
本当に橘先輩って馬鹿。
成績優秀なくせして、変なとこで馬鹿。
流星さんが私のこと好きなんてありえないでしょ!
心の中でツッコミながらも
出ていける雰囲気じゃないから影で見守る
目を丸くしていた流星さんが
突然、笑い出した
橘先輩は驚いて、胸ぐらを掴んでいた手を離す
「ふはっ、ははっ。お前、全部勘違いしてるよ。俺、確かに愛ちゃんのこと好きだけど、恋愛感情はねえよ。」
「はっ?だってお前、抱き合ってたじゃん。離してって言われても抱きついてたし。本気なのにって、言ってただろ?」
違うよ、違う。橘先輩。
だって、流星さんは.......
「抱きついてたのは、お前が見てたから。俺の場所から部室の窓丸見え。お前が覗いてたのもガッツリ見えてた。だからちょっとからかってやろうと思って、抱きついてただけ。それで、本気なのにって言ってたのは、あれは......愛ちゃんにじゃない。」
「愛ちゃんにじゃないって、、じゃあ誰なんだよ」
「..... お前、気づいてなかったの?あれだけずっと一緒にいたのに。リトルチームの時から、3人で。」
実は私は流星さんからたまに相談を受けてて。
どうしたら振り向いてくれるかなとか、どうやって振られたあいつを励ましてやればいいのかなとか、意外と恋愛初心者な流星さんはちょっと可愛い。
数秒の沈黙の末、橘先輩は口を開いた
「もしかして......俺のこと好きなの?」
「「ブハッ」」
あまりのど天然発言に
思わず、笑い声が出てしまって、
真剣な橘先輩と肩を震わせて笑っている流星さんが振り返った
「え?愛ちゃん?」
「いやー、ごめんなさい。ちょっと面白くて、盗み聞きしちゃってました!」
さ、どうぞどうぞ続けてくださいって、言いながらこっそりと木の陰から見守った。