先輩とわたし
先輩を待つ時間は長いようで、短くて
待っている間のこの緊張感が
私に確信を与えてくれた
やっと会えるんだっていう、確信。
校舎はもう暗い
真っ暗の中、携帯の明かりを灯して
ただ待った。
野球部以外の部活動はもう下校を始め、
野球部はトンボがけをしている
もう少しだ、
あとすこし。
私の大好きな人に会えるまで。
野球部の部員たちがバラけて、グラウンドが静かになった頃、
廊下から足音が聞こえた
音が静かだから、きっと靴下のまま
私の教室に近づくにつれ、音が大きくなり、走るペースが遅くなって。
ガラッとドアが開いた
私の、待ちわびた大好きな人がいた
「ごめんっ....!」
先輩が言う、ごめんは、何に対してのごめんなのか分からないまま
先輩の胸に飛び込んだ
もういい
なんでもいい
今会えたからそれだけでいい
「愛ちゃん、待っててくれて、ありがとう」
ギュッと抱きしめてくれた先輩の腕は
暖かくて、力強くて、安心した
グッと歯を食いしばった
油断すれば涙が溢れそうだったから
「... 先輩、遅かったです。ずっと、会いたくて、ずっと、待ってました。」
ソッと体を離して、先輩の目を見て言った
その表情を独り占めしたくて。
先輩は目を細めて、愛おしそうに、微笑んだ
「俺、好きだ。愛ちゃんのこと。」
不意に言われたその言葉で
我慢していたものが溢れた
また先輩に抱きついて、嗚咽を鳴らしながら先輩の肩を濡らした
「まっ、てたんですっ、やっ、と、きけた、、」
「.... ずっと、言いたかったんだ。でも、言い訳して遠回りしてた。俺、好きだよ。その真っ直ぐなところも。一生懸命なとこも。他人思いなところも。全部。」
先輩は私の肩をソッと持って
体を離した
真っ直ぐに向かいあう先輩の目には
真っ赤になった私が映っていた
頭で考える前にもう、言っていた
「先輩、好きです」
先輩は ふふっと笑って
「俺も」
そう言うと、体をかがめて、キスをした
初めてのキスは、初恋の味というけど、
私のキスは涙で濡れて、しょっぱかった。
ありがとう
大好きです。先輩。
fin