素敵な恋じゃないけれど。
柚季が歌っていた曲が終わり、
合唱部のみんなが拍手をする。
合唱経験者じゃないのに、この上手さ。
静音も感心していた。
「あ、森原」
突然呼ばれ、静音は首を傾げた。
「俺、合唱部入るから入部届けもらえないかな?」
「え、あ、わかった。取りに行ってくるね」
静音は、音楽室から出て職員室に向かった。
それにしても、どうして合唱部なんだろうか。
柚季はずっと運動部系が好きだと思っていたのに。
確かに合唱部も運動部並にきつい事はある。でも何も、合唱じゃなくても…
考えれば考えるほどわからなくなった。
「失礼します。熊田先生いますか」
「はいはい、どうしましたか?」
熊田先生は入り口の近くのデスクにいた。
「河本が合唱部に入部したいから入部届けが欲しいと」
「へえ、不思議ですね。
わかりました、ちょっと待っていてください」
やっぱり熊田先生も不思議だと思っている。
静音の頭にあることが思い浮かんだ。
もしかして、合唱部に好きな人がいるとか。
例えば真由美とか………て、もしそうだったら二人共両想いじゃんっ!!
自分のことじゃないのに急に嬉しくなってきて、静音は思わずにやついてしまう。
「入部届け持ってきましたよ」
熊田先生の声にハッと我に帰り、
軽く会釈をしてまた音楽室に向かった。