サガシモノ
前を歩いていた男子が立ち止まった事に気が付かず、危うくぶつかりそうになってしまった。


男子たちの隙間からそっとトイレの中を覗き込んでみた。


するとトイレにはあの4人がいたのだ。


名前は確か、飯田アキラ、五十嵐孝、松田邦夫、武田陽太だ。


重要だからと思って世界史の授業よりももっと真剣に覚えた甲斐があった。


今その4人はトイレの中にいて、飯田アキラが1人トイレの床に座り込んでいた。


……いや、正確にはこかされたのだろう。


そこは見ていなかったけれど、周りで3人が笑っているのを見ればなんとなくわかった。


飯田アキラは「汚ねぇ!」とののしられながらも、なにも言わずに座り込んでいる。


「おい、お前トイレに行くんだろ? さっさとしよろ」


五十嵐孝がそう言い、飯田アキラの太もも辺りを蹴った。


蹴られたズボンに足形がクッキリと残っている。


飯田アキラは何も言わず、ノロノロと立ち上がった。


まるで人生に疲れ切ってしまった老人のようにも見える。


「なんでやり返さねぇんだよ」


海が飯田アキラの様子を見てイライラしたように呟いた。
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