サガシモノ
初めて抵抗を見せた瞬間だった。


「なんだよ、アキラのくせに抵抗すんのかよ」


五十嵐孝はニヤリと笑う。


飯田アキラは手の甲で鼻血をぬぐい、上体を起こした。


左腕の時計を右手でグッと押さえている。


「これは……お前らに扱えるものじゃない」


「はぁ? なに言ってんのお前、ただの腕時計だろうが!」


五十嵐孝はそう怒鳴り、座ったままの飯田アキラの腹部にケリを入れた。


「グッ」


と、喉の奥から漏れるような声が聞こえて、腹部を押さえる飯田アキラ。


「なになに? そんなに高級な時計なわけ?」


「まじで? アキラの癖に生意気じゃねぇ?」


他の2人も元の調子に戻ってしまっている。


「おら、押さえろ!」


五十嵐孝の言葉を引き金に、2人が飯田アキラを拘束する。


五十嵐孝が飯田アキラの左腕に手を伸ばした瞬間「やめろよ!!」と、叫んだ。


今まで聞いたことのない飯田アキラの大きな声に、3人とも大爆笑した。
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