サガシモノ
旧校舎の中で感じていた違和感に気が付いてハッと息を飲んだ。


「なんだよ咲紀」


「そうだ、あの記憶の映像、なんか変だなって思ってたんだ!」


「変って、なにがだよ?」


「だってさ、飯田アキラはあの腕時計をとても大切にしてたんでしょう? そんな大切なものを学校にしてくるかな?」


あたしの言葉に健は首を傾げた。


「大切だから肌身離さずってやつだろ?」


「普通はそうかもしれない。だけど飯田アキラはあれほどイジメられてたんだよ? イジメッ子に取られるかもしれないって思わない?」


大切だからこそ学校には持ってこないという選択をしたんじゃないか?


そう感じていたのだ。


「なるほど。トイレで水までかけられてたもんな。腕時計が壊れるかもしれない」


「でしょ!? だけど飯田アキラは腕時計が壊れる心配をしている素振りはなかった。一見、それほど大切じゃないようにも見えるんだよ」


「なんだよ。じゃぁ探し物は別にあるってことか?」


そう聞かれると、返事に困ってしまった。


どうして飯田アキラは腕時計を持ってきていたのか。


どうして水にぬれても慌てていなかったのに、取られた瞬間慌てはじめたのか……。


「全然わかんない」


あたしはため息まじりにそう言ったのだった。
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