サガシモノ
「キ……テ……」


声は同じ事を繰り返す。


あたしの体に覆いかぶさっていたそれが、布団の中からズルリと姿を見せる……。


「キテ……キテ……」


嫌だ……。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!


目をそらしたいのにそらす事もできなかった。


布団の中から現れた青白い顔をした飯田アキラは、真っ赤な口を開き笑う。


「今スグ来イ!!!」


脳裏に響き渡る声で怒鳴られた瞬間、あたしは大きな悲鳴を上げていた。


「嫌!! こないで! こないで!!」


必死に布団から這い出して逃げる。


腰が抜けてしまって四つん這いになってドアへと向かう。


誰か、お願い、誰か助けて!!!


「咲紀、どうしたの?」


そんな声が聞こえてきてハッと我に返った。


気が付けば鳥の声や車の音が聞こえて来る。


寒気もスッと消えてなくなっていた。
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