サガシモノ
振り返ると、お父さんとお母さんが驚いた顔で立っていた。


自分の布団を見ても、飯田アキラの姿はどこにもない。


「い……ま……」


震える指先で布団を差す。


「なんだ? なにかいたのか?」


お父さんがそう聞きながら電気をつけた。


眩しさに目を細める。


部屋の中を見回してみても、やっぱり誰の姿もなかった。


しかし、飯田アキラのあの姿はしっかりとあたしの脳裏に刻まれていた。


あれは夢でも幻でもない。


あたしが旧校舎へ来ないから、迎えに来たんだ!


そう理解した瞬間、あたしは勢いよく走りだしていた。


行かなきゃ。


旧校舎へ行かなきゃ!!


「咲紀、どこへ行くの!?」


後ろからお母さんの声が聞こえて来る。


それも無視して、あたしは素足のまま玄関を出た。


「咲紀!! 戻るんだ!」


お父さんの声も聞こえて来る。


あたしは自転車に乗り、大急ぎで旧校舎へと向かったのだった。
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