サガシモノ
「失礼ですが、武田さんは今何をされてるんですか?」


陽がそう聞くと、武田陽太は自信たっぷりの笑顔を浮かべた。


「お前ら、『丘屋敷』って映画知ってるか?」


その質問にあたしは首を傾げた。


『丘屋敷』というのは数年前に流行ったホラー映画の題名だった。


丘に立つ屋敷の中に幽霊が出て、住人達が次々と呪われている映画。


日本中で大ヒットしたのをよく覚えている。


「それがなんなんですか?」


陽はイライラしたようにそう聞いた。


早く腕時計について聞きたいようだ。


「あれの原作小説を書いたの、俺なんだ」


瞬間、あたしたちは武田陽太の顔をマジマジと見つめてしまった。


この人がホラー映画の原作者?


そんな風には見えないし、小説家としての貫禄も感じない。


「すっげーだろ? だからさ、今作品書いてて忙しいんだ。締切なんだよ」


そう言っているそばから家の中から電話の音が聞こえてきて、武田陽太の顔がサッと青ざめた。


「ほらみろ、催促の電話だ」


そう言い、身震いをする。


どうやら言っていることは本当の事みたいだ。


忙しいんじゃなかなか話をする時間もなさそうだ。
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