サガシモノ
疑問と不安は大きく膨れ上がり、陽が引き出しを開けた瞬間、それは現実のものになっていた。


「……ない」


陽が小さく呟いた。


そう、たしかに机の中に腕時計はなかったのだ。


目の前が真っ暗になる感覚だった。


ここまでたどり着いて、ようやく終わりを迎えることができると思っていたのに……。


まだ、終わらないなんて。


「もっとちゃんと探せよ」


海にそう言われて、陽は引き出しの中にあるものを全部机の上へと出していく。


その中に腕時計はなかった。


「なんでないんだよ……」


健が絶望的な声を漏らした。


「よ、吉原先生が腕時計を盗んだのも何年も昔の話だよね? だとすると、ここにはもうないのかも……」


渚がそう言いながら、どんどん声が小さくなっていった。


ここにないのだとすれば、どこを探したらいいのかわからない。


また、振出しだ。


「ねぇ、ちょっと待って」


机に置かれた物の中に写真が何枚も混ざっていることに気が付いて、あたしはそう言った。


全部、吉原先生ともう1人男性が写っている写真だった。


吉原先生の恋人なのかもしれない。


男性はスーツを着ていて、身ぎれいな格好をしている。


しかし、男性の顔の中心に画鋲が付き刺されているのだ。


「あぁ、俺もそれは気になった」


陽が写真を見て顔をしかめてそう言った。
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